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「それほどお励みでありんしたなら、若様はさぞかしお強くてありんすか。」
「さあどうだろうな、今も稽古は怠ってはおらんが、それだけだ。」
青年は盃を持ったままの手で小指をひっかけるようにして左の袖を軽くめくり、手のひらと腕を少女に見せてやった。
確かにその手のひらはごつごつと固く大きく、ほっそりとして見えた腕は鍛え上げられた腱と筋肉を浮かび上がらせていた。
少女は銚子を置いてにじり寄りのぞきこみ、好奇心をいっぱいにのせた大きな目で、触れていいかと青年に尋ねる。
青年は同じく目でそれを許し、盃を傾けた。
少女の指がはじめはそっと、すぐに加減をはかりながら次第に強く腕をつついてくる感触をかすかに楽しみながら、青年は少女の好きにさせてやった。

「やっぱり若様はきっとうんとお強うありんす、ほら、わっちの指なんか押し戻して。父君もお師匠としてあの世でお鼻の高いことでありんしょう。」
「ああ、私の師匠は父上ではなくて…はじめは父上に稽古をつけてもらっていたが、師匠は別におる。良家の子息が集まるようなところは金もかかるし余計な気苦労をしかねんからな、町道場に師事しておった。」

少女はぴくりと眉を上げた。
青年の手のひらの固さをはかっていた指に力がこもった。

「御家人で…神威の家より位は下だったが、良い師匠だった。勿論剣も見事であったが何よりも、父を敬えぬままなくした私に、敬うべき背中をお示しくださった。」

「ばたばたと家督を継いだ折も、神威の家を気遣うものは沢山いたが、若造扱いをせず私を気遣ってくださったは師匠のみであったな。」
青年は盃を置いていた。
静かな口調で話し続けていたが、青年の目は先程のくつろいだ色をうつしてはおらずじっとうつむいたままの少女を凝視している。
けれど殺気に近いほどに張りつめたその視線には、いつ少女がくずおれても助け起こせるようにという確かな労りがこめられていた。

「この人が実の父であったらとは何度も思ったものよ。」
うつむいたままの少女は今や青年の左手にすがっているような有様だった。
青年はその言葉のために唇をわずかに動かすのみで、他は息づかいすらもひそめているようだった。
崩れても、助け起こせるように。
崩れぬための、支えになるように。

「そのお師匠様に、今、も…?」
少女は顔を伏せたまま震える声で尋ねる。
青年の手のひらをつかむ少女の指は今や白く色を変えるほど強く握りしめられていたが、少女は自身の手のことなど忘れてしまっているようだった。

「…今年の夏を迎える前に、病で亡くなられた。」

少女は答えない。
名代として評判になるほどの新造であればもう身に染み付いているはずの、洒脱であたりさわりのない「遊女」の受け答えは全く出てこなかった。

「死に水をとったのは私だ。師匠は死の床で私に許しを請われたよ。」

「敬われるような男ではないと。私に、騙していた許してくれと。」

「道場と、剣を持てる侍であることを維持するために、人として親として、してはならぬことをしたと。」

少女のよすがになっている左腕はそのままに、青年は右手で少女の髪に触れた。
静かな口調は変わらない。

「私もうっすらと覚えている。私が道場に通い始めたばかりの頃か、師匠に娘が生まれた。道場の脇には井戸があったな。そこで遊ぶ姿をたまに見た。7年前から、姿を見なくなった。何も言われなかったから、私も何も問うべきではないと思っていた。」

「7年前の冬に、7つで、ここに売られた御家人の娘は、」

「りん、そなたであろう。」





   



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